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バカポエム

バカなポエムとバカな自由律俳句とその他色々を発表しています。土曜日更新。

フォークソングス

(一)

 

安アパートのドアを軋ませて

背を丸め玄関に上がれば

空元気をぶら下げたぼくのともだちが

大騒ぎでクラッカーを鳴らしてきて

驚いたふりして顔を上げれば

吹けば飛ぶようなちゃちな飾りつけと

「血便止まってよかったねパーティー」

と書かれた垂れ幕がぶら下がっていたんだ

けれど ああ

ぼくは血便が出たことなんてないんだ

そうさ

ぼくは血便が出たことなんてないんだ

もう終わりにしようよ 今日のところは

酒もそろそろ尽きる頃さ

騒がないでおくれ 後生だから

また隣の親爺に怒鳴りこまれちまうよ

笑わないでおくれ 後生だから

怒鳴り込んできた隣の親爺に

いつものように金玉を四十分近く揉まれちまうよ

ほら 聞こえるかい

ノックの音がするだろう

ああ……

 

 

(二)

 

大きな手で

彼が私の髪を撫でる

薄い唇で

彼が私の耳元に囁く

 

――君の髪はふわふわだね まるで

――僕の実家の便座カバーみたいだ

 

白い夜

そっと更けていく

 

 

(三)

 

オープンカーの助手席に

グラサンをかけた木魚を乗せて

坊さんはやってきました

2サイズ大きい袈裟をはためかせ

 

ドラムンベースに合わせた経が

バカデカいスピーカーから流れています

穴という穴に綿を詰められた私の顔を

ミラーボールが照らしています

 

清めの酒は割らずにロックで

清めの塩はグラスの縁に

出棺時には

弔辞のリミックスバージョンが流されて

 

賑やかな葬式で

私は嬉しいです

長いこと話していなかった娘の趣味を

知ることができて嬉しいです

 

 

(四)

 

街の喧噪に

夢をかじられて

目が覚めた

 

整えられた部屋の底には

きのうの吐息が

沈殿している

 

ぼやけた陽の降る冬の日に

彼女は部屋から

姿を消した

 

質素な鏡台に

ルージュで残された

ささやかなサヨナラ

 

そのルージュには

きな粉と

餅の破片が

あちこちにくっついていて

 

ああ

何か食ってから

出て行ったんだなと

僕は思った

 

 

(五)

 

森の奥から

井上陽水の声が

響いてくる

 

 毒虫がいるぞー

 ここに毒虫がいるぞー

 

森の奥から

陽水のギターが

響いてくる

 

 孤独な毒虫のために

 ひとりぼっちの毒虫のために

 

森の奥から

陽水の良い声が

響いてくる

 

 毒虫の尻から

 毒汁が飛び出したぞー

 Fu Fu

 

森の奥から

肌のかぶれた陽水が

帰ってくる

 

 毒虫を肩に乗せて

 ひとりぼっちの毒虫を

 肩に乗せて

 

 

(六)

 

たとえば

ライオンから逃げたインパラの群れは

砂埃の中で待ち構えていた

イジリー岡田

舌技の餌食になるだろう

 

たとえば

初めて木から飛んだ子鳥は

落ち葉のクッションの中で待ち構えていた

イジリー岡田

舌技の餌食になるだろう

 

たとえば

夜明けの荒野を駆けるカウボーイは

ウォッカの瓶の中で待ち構えていた

イジリー岡田

舌技の餌食になるだろう

 

たとえば

老樹にもたれ眠る少年は

夕暮れの夢の中で待ち構えていた

イジリー岡田

舌技の餌食になるだろう

 

たとえば

朝もやの美しさを

銀河のせせらぎを

歴史の裏切りを

兵士の握る十字架を

地平線に建つ鉄の塔を

ポケットの地図を

雨の降りしきる森の樹を

古書の隙間からこぼれた革命の灰を

イジリー岡田の舌技は

餌食にしていくだろう

 

たとえば

あなたのぬくもりを

 

 

(七)

 

嗅がせる相手のいない

握りっ屁を握り

聞かせる相手のいない

石立鉄男のモノマネを練習し

見せる相手のいない

胸筋を鍛えている

シャワーが壊れているから

汗をかいてはいけないのに

 

買い換えなければいけない冷蔵庫の中では

閉店間際のスーパーで買った

半額のイカの刺身が

どんどん傷んでいく

 

一人の夜がこんなにも

長いものだったなんて

 

 

(八)

 

僕のおなかに黙々と

変な機械を埋め込みながら

若いエイリアンは

今日なんかちょっと

おなか痛いので

早退させてください

と上司におずおずと尋ねた

 

僕のおなかの機械に

変な色のオイルを注ぎながら

上司のエイリアンは

あとは俺がやっとくから

今日は上がっていいぞ

気をつけて帰れよ

とさらりと答えた

 

僕のおなかの機械が

変な色の管を内臓に繋ぎながら

何かを計算しているその中で

突然いなくなった僕のこと

僕の上司は

心配してくれているだろうかと

窓の外の地球を見ながら

ふと思った

 

 

(九)

 

あの日 木枯らしの喫茶店

冷めたコーヒーは夜の色

恋に不器用な僕を見て

君はそっとつぶやいた

 

<今夜はあなたを困らせたいわ>

濡れた瞳が僕を見つめている

遠くから強い風が吹き

通りの街路樹がざわめいた

 

<私の父は脱サラをして

カリフォルニアのスシバーで

ニンジャの恰好でアボガドを握っているの

これについてあなたはどう思う?>

 

あの日 木枯らしの喫茶店

リアクションが取れない僕を見て

君は肩を震わせて

冷めたコーヒーをすすってた

 

 

(十)

 

沈黙して

春の陽に

ひとり

腰かけている

 

(飼い猫が

 ダッチワイフを

 割ってしまった)

 

さびしげな

ウグイスが

つつましく

鳴いている

 

(飼い猫が

 ダッチワイフを

 割ってしまった)

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