恩師
いなかの宴会場は
懐かしい人たちでいっぱいだ
三十年ぶりの顔ぶれは
変わったのもいれば
変わっていないのもいて
口をひらけばがやがやと騒がしく
白々と輝く部屋の灯りに
掌の皺はいっそう深い
八十を過ぎた恩師は
相変わらずの優しい目で
夜を湛えた窓を背に
僕たちをにこにこと見ていた
僕はビールを片手に立ち上がり
恩師の傍に腰をおろした
あの日のことを謝るために
三分ほど話した結果
恩師は僕の名前など
ぜんぜん覚えていなかったが
「花瓶を割ったのにシラをきり
それどころかウソ泣きをして
切り抜けようとした挙句
ウソ泣きに力が入りすぎて
勢い余って脱糞した少年」
というエピソードは
しっかり覚えていることがわかり
恩師も何か微妙な顔をしていたので
居酒屋の便所にウンコをして
流さずに帰り
泣きながら寝た